SCOのふしぎ(その3) 新世界秘話

2015年05月12日 22:40

チューバの福田君が私のところへ真顔でやってきた。

「あのー、二楽章で最初のところを吹いたら、あとずっと楽器を構えておかなければいけませんか?」

「いやまあ、おろしてもいいよ。」

「ほかの楽章はどんな風に座っていたらいいでしょう。」

「なるべく目立たないように。ほら、よくパーカッションの人がちょろちょろ動いてけっこう邪魔なことがあるじゃない。上手な人はいつの まにか動いて演奏するよね。」

「はあ、そうですか。」

「そうそう、演奏者の中には、目をあけたまま寝るという人もいるらしいよ。」

「えーっ、寝ることはないと思いますけど。」

注):新世界交響曲のチューバの出番は第二楽章だけで、しかも最初の4小節と最後の方の4小節の合計8小節しかな い。しかし、この部分は金管に低音の木管が加わって、コラール風のすばらしい和音を聞かせる。ちなみにこの曲では、シンバルはたった1個の音符しか与えら れていない。

第3楽章の一部に非常に複雑なところがある。3拍子なのにホルンが2拍ずつ音を出し、それがまた1拍ずつ交互に出てきて、さらにトラン ペットが別のリズムを出す。それにメインテーマが絡んでなにがなにやらさっぱりわからない。

指揮者としてもよくわからないまま振っていたら、どうも1小節多く振っていたことに気が付いた。こんな振り方をする指揮者も指揮者だ が、それにもかかわらず、なんとか演奏してしまっているオーケストラもオーケストラである。そのことに気が付いて落ち着いて振るようになってからようやく 指揮者とオーケストラが一致することになった。

第1楽章の最初の部分はまことに難しい。そこを通り抜けてしまえば、あとは野となれ山となれである。

この冒頭の部分は、私なりにいろいろ工夫をした。わかりやすいように、長い休みのところもタクトを動かして拍子をとる方法はテンポがと りやすいが緊張感はない。休みの部分は振らず、頭の中で勘定して出るところだけを振る方法では、オーケストラが次の出を予測ができないため、結果的に緊張 した良い演奏になる。本番ではややあいまいに振ってしまい、しかも私の休符のテンポが伸び、間延びした演奏となった。一度自分のタクトをビデオにとって客観的に眺めてみればよかったと思う。