指揮者に要求される能力

2015年05月12日 23:14

このことについては過去にも書いたことがあるが、未だに「わかった」といえるようなものではない。しかし、現実に指揮をしなければならない以上、時々はきょろきょろとあたりを見回して、情報を集めるようにしている。

最近これに関する面白い書籍を手に入れた(「名指揮者があなたに伝えたいこと・100のリーダーシップ」千蔵八郎著、春秋社)ので紹介してみたい。この書は、指揮者の箴言集といった性格を持っていて、無理やり統一見解を出そうとしていないところが成功している。

この本の趣旨には反することだが、最大公約数的な意見をまとめると次のようになる。

  1. 人間関係こそが大切。
  2. 指揮者にとって一番手を焼くのは楽員の反抗である。
  3. 不必要な動作をしない。
  4. 楽曲の理解こそが指揮者の能力の上で最も大切なことである。
  5. 指揮者の養成に、学校の勉強はあまり役に立たない。現場の経験が指揮者を育てる。

といった具合である。

これらの意見はいわゆる「大指揮者」の意見であるが、私なりに「アマチュアの指揮者」にあるべき資質を二つ付け加えさせてもらえば、

  1. 良い演奏よりも楽しい演奏を実現すること。
  2. 一人のアマチュアとして、雑用も引き受けること。

といったことになろう。

プロ、アマを問わず、オーケストラは指揮者との信頼関係という、かなりたよりないものによって成り立っている。それを築くやりかたは人によって千差万別である。私の場合をいえば、音楽的能力よりも無遅刻無欠勤というようなあたりを武器にしているようにも思う。

この本に現れる大指揮者たちの大半の生まれ年が1910、1920年代であることは興味深い。私が中学生のころから大指揮者といわれてきたひとたちである。

年功によって大指揮者が生まれるなら、大指揮者も次々に世代交代してもよさそうであるが、どうもそのような傾向になっていない。昨今では大指揮者が 生まれにくいと一般に言われている。本書ではその原因にも言及している。メディアとジェット機の発達が人間の能力を平準化してしまい、自らのやりかたを独 自に編み出さなければならなかった昔に比べて大指揮者が生まれにくいという趣旨の議論である。それだけ指揮者には「独自の境地」というものが要求されると いうことなのか。つまり、他から学習し、影響されるよりも、自ら開発し、他を引っ張っていく立場にあるということなのだろう。