スリランカの楽団

2015年05月14日 21:44

仕事でスリランカへ行った。

高級ホテルを安く契約してもらって宿泊した。

やけに広いロビーの片隅にピアノが置いてあって、毎夕ピアニストや小さな楽団が来て演奏する。ロビーが石の床で回りがガラス張りということもあり、響きすぎて音楽的には良い環境ではない。

60歳を超えていると思われる年寄りのピアニストがバンドマスターをしている、バイオリン、クラリネット、ユーホニュウム、フルート、コントラバスというなんだかよくわからない編成のバンドが出演する。

このバンドにときどき女性のバイオリニストが数名加わる。この人たちのボウイングや音色は大変しっかりしていて、基礎ができていることをうかがわせる。

演奏曲はもっぱら古いポップスで、私のような歳のものにはなつかしく、聞きやすい。楽譜は用いず、即興で演奏している。もっとも毎日同じような曲を 同じように演奏しているから、大部分は決まっているようなもので、即興の部分は少ない。ピアノとコントラバスが伴奏し、なんだか皆が勝手にメロディーらし いものを弾く。だいたいはうまく合うが、ちょいちょいギャッというところがある。ピアノの音が大きすぎ、バランスは悪い。どうもあまりバランスをとろうと しているようには思えない。全体にリズム感に乏しく、ポップスとしてはあまり面白い演奏とは言えない。せっかく基礎があるのだから、もっと音楽を面白くす る工夫をしてはどうかと、そんなことを考えた。

この人たちはプロであろうかアマであろうかとだいぶ思い悩んだが、あるとき機会があって聞いてみた。

一応プロであるらしい。平たく言えばキャバレーバンドというところであろうか。ホテルやらカジノやらを回って仕事をしているようである。かってジャイカの関係でナカヤマという日本人から指導を受けたとか。

せっかく毎日演奏してくれてはいるが、立ち止まって聞く人は少ない。曲が終わっても拍手などはめったにない。演奏する側ももう少し聞かせる工夫をし てもよさそうであるが、毎日同じ調子で同じような曲を繰り返し演奏するばかりである。投げやりな部分はみじんもないが、居心地の悪さは感じているのかもし れない。一度言葉を交わした縁もあって、私が通るとバイオリニストが救われたように弓を振ってくれるようになった。

夜になると、ロビーの片隅のバーに女と男の二人組みのバンドが現れる。オリジナルなのだろうか、なかなか魅力的な音楽を聞かせる。二人とも歌はうまい。男の声が高いので、二人のハーモニーはきれいに響く。

伴奏は男性の方が受け持っている。キーボード型の電子楽器で、数人のバンド並の効果を出している。オブリガートも付けられるし、間奏の部分は金管みたいな音でソロも入る。どこでどう操作しているのかわからないが、昨今の電子楽器はたいしたものである。

さて、このバンドのリズム感はすばらしい。付点の付いた音符は十分に伸ばし、というより、本来の長さよりもっと伸ばして演奏している。ベースの音は明確に聞こえるし、適切なアクセントがある。リズムを刻む楽器の切れは良く、あまり大きな音では出てこない。

しかしながら、リズムを決めているのは、演奏者ではなく、あらかじめ組み込まれたソフトウエアであるらしい。

リズム感に乏しい人間のキャバレー楽団と、リズム感に優れた電子楽器楽団。電子楽器が欲しいなあと思った反面、人間の楽団にももっとがんばってもらいたいと切に思った。