携帯電話はご遠慮ください

2015年05月14日 21:49

「車内では携帯電話はご遠慮ください」、と言われる。

どうしてであろうか。

「会話はご遠慮ください」、とは言わない。乗客同士が話をするのはいいらしい。

携帯電話の場合、相手の声が小さかったりすると、不自然に声が大きくなったりする。通話をしている人は、周囲ではなく、携帯電話の通話環境音量に合わせて声を調整してしまうので、迷惑になることがある。それはわかる。

しかし、携帯電話ご遠慮の、それが主な原因ではないと筆者は思う。

一番大きな問題は、通話の相手の声が周囲に聞こえない、ということにあるのではないだろうか。
たとえば、携帯電話にスピーカーを付けて、相手の声も周囲に聞こえるようにしたらどうなるであろうか。それまで会話の筋が追えなかったものが、追えるようになるので、会話を盗み聞きたい人には満足の行く解決ではないか。

また、両方とも聞こえていると、自然な話のリズムとなり、人によっては子守唄のように聞こえてよく眠れるかもしれない。それが会話の片方だけしか聞こえないと、話のリズムが不自然となり、突然会話が聞こえ出したりして、びっくりして目が覚めてしまうということにならないか。

もっとも車内の会話だって許されてはいるようだがほどほどにしないといけない。以前東京から岡山までの乗車の際に隣に座った見知らぬ人と会話がはずんだことがある。ほとんどその人が一方的にしゃべっていた。それが小田原ぐらいから岡山で降りるまで延々と続いた。話は面白かったので、私は楽しかった が、周囲の人が迷惑そうにしていたのは覚えている。特に列車が止まると周囲の騒音レベルが下がり、その人の声だけが車内にわんわんと響く、ということに なってしまい、聞いている私が周囲にきがねして小さくなっていた。

ちなみに、その人はワインのソムリエの試験を受けに、下関から東京へ行っていた、とのことで、もともとは船のコックをやっていたとか。 下っ端のときはずいぶんいじめられた。あんな教育方法は良くない、とか、今は地元で料理屋をやっていて、けっこう儲かってもいるのだが、奥さんをほったら かしにしていたら奥さんに怒られた、とか、中国からさそりを輸入して料理のひとつに加えてみたい、とかいう話を3時間あまりにわたってしゃべった。私が一 時は船乗りを 目指していたということを知ってからはますますボリュームが上がり、どうにも止まらない状況であった。周囲の人も、見ず知らずの人の会話とはとても思えな かったであろう。

でもまあ、多少会話があるくらいの車内のほうが、黙りこくった人ばかりの車内よりもアットホームに感じられるとは思う。

話は変わって、事務所の中では、電話はご遠慮くださいとは言わない。仕事をするには電話連絡は不可欠だから、それはしかたがないであろう。しかし、電話の声の大きさは人によってかなりの開きがある。日本型の集団たこ部屋方式の事務所だと、ついたてもなにもないので、声の大きい人の電話は事務所中で聞 こえる。なにしろ、同じような仕事をしているのであるから、電話の内容はうすうすわかる。それががんがん耳に飛び込んでくる。しかも相手の声は聞こえないので、相手が話す番になるとこちらでいろいろ想像する。あれは怒っているのかな、とか、何かトラブルがあったに違いないとか、つきることがない。よって、 このような状態では、自分の仕事の能率は半分ぐらいに落ちてしまい、あとの半分はその電話の会話を想像するのに費やされる。それが私だけなら良いが、おそ らく事務所にいる何十人かの人がみな同じ影響を受けているであろうと推測される。一人の声の大きい人は、事務所の能率を大幅に低下させる可能性があるとい うことである。反面、その人の仕事はスムースに進むであろう。何しろみんなに状況が把握できるわけであるから、打合せなどなくてもすぐに仕事ができる。 よって、そのような人はより多く仕事をし、より多く電話をかける結果、ますますその人の仕事だけが前に進むということになる。さらにその人は業績も上がるのでえらくなる。そしてますます居丈高に大声で話をする。

この対策として、その人の受話機に増幅器を付け、送話器にアッテネーター(信号を小さくする装置)を付けるという方法が考えられる。先方の話が大声に聞こえると、受けた方は声を小さくするものである。その人の声は向こうに小さく聞こえ、先方の声はその人に大きく聞こえるのが良い。そうすると、先方はますます声が大きくなり、そのひとはどんどん声が小さくなるであろう。ただし、これは先方の迷惑は考えていない話ではあるが。