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2015年05月14日 21:42

自転車で岡山の町へ遊びに行ったときのこと。

気がつくと歩道に人が倒れていた。そばに自転車が転がっている。

この通りは車の往来が激しいが、歩行者は比較的少ない。

自転車を止めてそばへ寄る。よくわからないが、胸を指してなにか言う。何かをとってくれと言っているようである。耳を寄せて男の言うことを聞く。胸のポケットを指すのでそこから定期入れを出す。そのなかの薬を飲ませてくれ、ということらしい。

自分のおやじがニトログリセリンを持って歩いていたので、意味がわかった。一錠を飲ませてやる。
しかしどうも回復しない様子である。このあたりから私もだいぶ不安になってきた。そこへ、なんだか水商売風でやや派手なネクタイをしめた中年の男が通りか かった。「どうしたんですか」と聞くのでこういうわけでと話をする。私を「お客さん」と呼ぶのがどこか普通でないが、まあそんなことは言ってはおれない。

倒れている男は、苦しそうにしながら、ここへ連絡してくれという。病院の電話番号だとのこと。かかりつけの医者なのであろう。すぐ公衆電話のところへ行って(当時公衆電話はそこここにたくさんあった)そこへ電話してみるが出ない。

倒れた男のところへもどったとき、高校生とも見えるようなにきび顔の、ややがらの悪そうな若いおねえちゃんが自転車で通りかかった。「どうしたんで すか」とかなりきつい調子で言う。私が自転車でぶつけたと思ったのかもしれない。これこれと説明する。説明の途中から倒れた男の手をとってディズニー ウォッチの針を見ながら脈を数えている。「看護学校の学生」だと言った。さすがに違うもんだと私と水商売風男は二人してすっかり感心してしまう。もう一度 そのかかりつけの医者らしいところに連絡するようにそのおねえちゃんが我々中年男に指示をした。さっそく私が走ってそこへ電話するがやっぱり出ない。「も う一錠飲ませて見ましょう」とおねえちゃん。中年男たちが指示に従う。

しかし、どうも回復がはかばかしくないようである。「やっぱり救急車を呼びましょう」とおねえちゃんは言う。中年男がすぐに119番に電話をかけに走る。

しばらく待っていると救急車が反対車線を走ってきた。中年男二人で一生懸命合図をする。おねえちゃんは落着いて倒れた男のめんどうを見ている。

倒れていた男は無事救急車に収容され、救急隊員に事情を告げて3人は解散した。

あのおねえちゃんは立派な看護婦になったであろうと確信している。